月壺(ダルハンアリ)の形態には、朝鮮時代に官窯へ徴発された陶工たちが、夜遅くまで作業に追われるなか、ふと見上げた月に故郷や家族への思いを重ねたことから生まれたという説がある。私自身もまた、二十年近く制作を続けるなかで、夜にはいつも月を眺めてきた。私にとって月壺は、韓国人として異国で生活するなかで感じる文化的混乱から生まれる孤独、祖国への郷愁、生活を維持するための労苦など、さまざまな感情を象徴する存在である。

 

月壺の伝統的な制作方法は、上部と下部をそれぞれ半分ずつろくろで成形し、貼り合わせる方法(ワンツキ)である。しかし本作ではその方法ではなく、帯状の粘土を一段一段積み上げていくコイル成形の技法を選択した。それは、自身の経験が積み重なりながら一つの結果(形態)を形成していく過程を象徴するものであり、ろくろ成形による作品とは対照的なテクスチャーを生み出している。これはまた、韓国の既存の枠組みから離れ、日本で生活するなかで自分自身の形を探し続けている現在の状態を示している。

 

さらに、この形態の表面には、現在と過去の自分が抱えてきた感情の日記を文様として刻み込んだ。古くから、陶器の表面に文様を刻む例は数多く存在する。それらの多くは、人々の願いや人生への希望、あるいは好んだ詩など、比較的希望的な性格を帯びたものである。それらとは対照的に、本作における日記のような文様は、自身の内にある多様で率直な感情を表出させる象徴として存在している。

リュ・ジェユンは韓国の西海に浮かぶ境界の島、白翎島(ペンニョンド)に生まれ、現在は京都を拠点に活動しています。

彼の作品は「移動」「境界」「過渡状態」をテーマとし、自身の跨地域的な生活経験を継続的な思索の枠組みへと変換しています。故郷である白翎島は、地理的には孤立していながらも、歴史的には宣教、流刑、避難、定居といった多重な経験が重なり合う「通過と交差の地」でした。そこは閉ざされた場所ではなく、多様な流動が交わる「境界の場(リンミナリティ)」と言えます。

彼はこの原風景を出発点として、異なる空間の間に生じる「関係性の状態」に着目し、未完の過渡的プロセスにある個の臨界的な位置を追求しています。陶土と釉薬を主な媒体とし、堆積、乾燥、収縮、焼成という工程を通じて、時間と物質の変化を可視化します。土や釉薬は受動的な素材ではなく、時間や温度と共に作用し合う「生成的な存在」です。

彼の作品は、固定された形式的な結果を求めるのではなく、生成のプロセスそのものが持つ不確定性と多重構造を強調します。提示されるのは単一の結論ではなく、幾重ものプロセスが沈殿して成る「構造」そのものです。現在は「通過儀礼(あるいは非・通過儀礼)」の概念を核心に据え、アイデンティティ、空間、そして存在のあり方の動的な関係性を探求し続けています。

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リュ・ジェユン

月壺6(12個の月)

2024

¥ 77,000 (税込)

月壺(ダルハンアリ)の形態には、朝鮮時代に官窯へ徴発された陶工たちが、夜遅くまで作業に追われるなか、ふと見上げた月に故郷や家族への思いを重ねたことから生まれたという説がある。私自身もまた、二十年近く制作を続けるなかで、夜にはいつも月を眺めてきた。私にとって月壺は、韓国人として異国で生活するなかで感じる文化的混乱から生まれる孤独、祖国への郷愁、生活を維持するための労苦など、さまざまな感情を象徴する存在である。

 

月壺の伝統的な制作方法は、上部と下部をそれぞれ半分ずつろくろで成形し、貼り合わせる方法(ワンツキ)である。しかし本作ではその方法ではなく、帯状の粘土を一段一段積み上げていくコイル成形の技法を選択した。それは、自身の経験が積み重なりながら一つの結果(形態)を形成していく過程を象徴するものであり、ろくろ成形による作品とは対照的なテクスチャーを生み出している。これはまた、韓国の既存の枠組みから離れ、日本で生活するなかで自分自身の形を探し続けている現在の状態を示している。

 

さらに、この形態の表面には、現在と過去の自分が抱えてきた感情の日記を文様として刻み込んだ。古くから、陶器の表面に文様を刻む例は数多く存在する。それらの多くは、人々の願いや人生への希望、あるいは好んだ詩など、比較的希望的な性格を帯びたものである。それらとは対照的に、本作における日記のような文様は、自身の内にある多様で率直な感情を表出させる象徴として存在している。

リュ・ジェユンは韓国の西海に浮かぶ境界の島、白翎島(ペンニョンド)に生まれ、現在は京都を拠点に活動しています。

彼の作品は「移動」「境界」「過渡状態」をテーマとし、自身の跨地域的な生活経験を継続的な思索の枠組みへと変換しています。故郷である白翎島は、地理的には孤立していながらも、歴史的には宣教、流刑、避難、定居といった多重な経験が重なり合う「通過と交差の地」でした。そこは閉ざされた場所ではなく、多様な流動が交わる「境界の場(リンミナリティ)」と言えます。

彼はこの原風景を出発点として、異なる空間の間に生じる「関係性の状態」に着目し、未完の過渡的プロセスにある個の臨界的な位置を追求しています。陶土と釉薬を主な媒体とし、堆積、乾燥、収縮、焼成という工程を通じて、時間と物質の変化を可視化します。土や釉薬は受動的な素材ではなく、時間や温度と共に作用し合う「生成的な存在」です。

彼の作品は、固定された形式的な結果を求めるのではなく、生成のプロセスそのものが持つ不確定性と多重構造を強調します。提示されるのは単一の結論ではなく、幾重ものプロセスが沈殿して成る「構造」そのものです。現在は「通過儀礼(あるいは非・通過儀礼)」の概念を核心に据え、アイデンティティ、空間、そして存在のあり方の動的な関係性を探求し続けています。

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取り扱い YUMEKOUBOU GALLERY -夢工房 京都店
サイズ 22.0 x 20.0 x 20.0 cm
素材 粘土、釉薬、金、油絵具、酸化焼成
商品コード 1100054497
配送までの期間 約3週間
購入条件

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