アメリカ人キュレーター、ヘレン・モールスワース（Helen Molesworth）による作品集。20世紀半ばのアメリカの芸術を育んだ伝説的なリベラルアーツ・カレッジを、動的な視点から捉え直す一冊。

1933年、教育思想家のジョン・ライス（John Rice）は、芸術体験を学びの中心に据える実験として、ノースカロライナ州にブラック・マウンテン・カレッジ（Black Mountain College）を創設した。同校ではジョン・デューイの思想を背景に、芸術経験を学びの中心に据える教育を推進。わずか24年間の運営であったが、この先駆的な学校は前衛的な美術・音楽・ダンス・詩の発展に重要な役割を果たし、驚くほど多くの重要なアーティストが教員や学生として関わった。教員には、ヨーゼフ・アルバースとアニ・アルバース（Josef and Anni Albers）、ジョン・ケージ（John Cage）、マース・カニングハム（Merce Cunningham）、バックミンスター・フラー（Buckminster Fuller）、カレン・カーネス（Karen Karnes）、M.C.・リチャーズ（M. C. Richards）、ウィレム・デ・クーニング（Willem de Kooning）らが名を連ね、学生には、ルース・アサワ（Ruth Asawa）、ロバート・ラウシェンバーグ（Robert Rauschenberg）、サイ・トゥオンブリー（Cy Twombly）が含まれる。

本書は、この伝説的な学校と、そこに関わったアーティストたちの仕事を多角的に探究する。多分野の研究者が、農業プログラムからバウハウスの理念の影響に至るまで、カレッジの多様な側面、そしてその長期的影響をもたらした人びとと思想について、論考を寄せている。加えて、テクスト、音楽作品、ヴィジュアル・アート、クラフトといった作品解説も収録されている。フレッシュな視点と豊富な図版によって、ブラック・マウンテン・カレッジ特有の創造と実験の空気が伝わり、多くの人びとを鼓舞してきた要因が照らし出される。同校とその持続する遺産に関心をもつ読者にとって必携の一冊である。