アイルランド人フォトグラファー、イーモン・ドイル(Eamonn Doyle)の作品集。作者の兄の急逝による母の痛哭を描く一冊。

「ダブリン三部作」である『i』(2014年)、『ON』(2015年)、『End.』(2016年)において、作者は目の前で繰り広げられる都市の動きとそこで暮らす人々の行動を切り取った。本作では、ダブリンが位置する東海岸の都市部から離れ、アイルランド西端の大西洋沿岸へと舞台を移し、ところどころでどこからともなく現れる、人間の手が全く加えられていないパラレルワールドのような風景を訪れた。

我々は強烈な色彩で描かれた写真を通し、この風景を旅しながら自在に姿を変える一人の人物を追うこととなる。布で全身を覆われたその姿は亡霊のようであり、重力、風、水、光に押されたり引かれたりするにつれ、色や質感が変化していく。 ある場面ではほとんど気体のように見え、また別の場所では溶けたように見え、そして時には地に縛られているその重みが見えてくる。そのようなカラー写真とともに、ある種の地震の形跡を描写しているかのように感じさせる、濃いモノクロ写真も多数掲載されている。

本書には、母親が他界した息子に宛てて記した手書きの手紙を何ページにもわたって収録しており、まるで層を成すように綴じられている。作者の兄であるキアラン(Ciarán)は1999年に33歳で急逝した。母親のキャサリン(Kathryn)は2017年にこの世を去るまで、このような時間反転的な出来事による悲しみから逃れられなかった。手紙からはところどころに単語らしきものが読み取れるが、その蓄積によって、楽譜、音波のヴェール、嘆きの音声による譜面として現れるのだ。

ミュージシャンのデイヴィッド・ドノホー(David Donohoe)は、1951年にアイルランドで録音された「キーン(Keen / ケルトの弔いの歌)」をもとに、展示作品群に伴う2部構成の新作声楽曲を作った。この曲は10インチのレコードとして書籍に収められている。この重層的で変化し続ける構成は、本書を体験するにあたり不可欠な部分を成し、その形式と表現方法の両面で書籍本体へ直接的に関わってきている。「キーン(またはアイルランド語の「caoinim」から由来する「Cine」、「嘆き悲しむ」の意)」は、死者のために歌われる古代アイルランドに伝わる嘆きの歌であり、死者の魂をあの世へと導き、集まった人々の悲しみを浄化する表現として存在する。伝統的に「キーン」は女性によって故人の亡き骸のすぐ傍で歌われる。本書に収録する作品の中には、風に揺れる人物と布の歪んだ形が、泣き叫ぶ音そのものの形をしているように見える。

ダブリン三部作において作者は、いかにしてその都市の現代的な力と人々の動きが、絶えず互いに影響しあい、形作るのかを観察している。本作では、我々を形作り突き動かしてきた、根源的かつ原初的な力を探る。

光の速さというのは残酷なもので、我々が振り返ることができるのは常に過去のみであるということだ。遠くを見れば見るほど、より遠い過去を見ることになる。しかし、理解しようと試みることで、過去は現在にもたらされる。たとえ、時にはそうできないことがあるとしても。これは、ダブリンの街角で撮影された写真にも、遥か遠く離れた銀河のプラズマ雲を撮影した写真にも当てはまることだろう。そして、時間の振動を通過することで、どこか理解することができる。まるで、宇宙に放たれた歌のように。

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イーモン・ドイル

K [SIGNED / NUMBERED]

2018

¥ 11,000 (税込)

アイルランド人フォトグラファー、イーモン・ドイル(Eamonn Doyle)の作品集。作者の兄の急逝による母の痛哭を描く一冊。

「ダブリン三部作」である『i』(2014年)、『ON』(2015年)、『End.』(2016年)において、作者は目の前で繰り広げられる都市の動きとそこで暮らす人々の行動を切り取った。本作では、ダブリンが位置する東海岸の都市部から離れ、アイルランド西端の大西洋沿岸へと舞台を移し、ところどころでどこからともなく現れる、人間の手が全く加えられていないパラレルワールドのような風景を訪れた。

我々は強烈な色彩で描かれた写真を通し、この風景を旅しながら自在に姿を変える一人の人物を追うこととなる。布で全身を覆われたその姿は亡霊のようであり、重力、風、水、光に押されたり引かれたりするにつれ、色や質感が変化していく。 ある場面ではほとんど気体のように見え、また別の場所では溶けたように見え、そして時には地に縛られているその重みが見えてくる。そのようなカラー写真とともに、ある種の地震の形跡を描写しているかのように感じさせる、濃いモノクロ写真も多数掲載されている。

本書には、母親が他界した息子に宛てて記した手書きの手紙を何ページにもわたって収録しており、まるで層を成すように綴じられている。作者の兄であるキアラン(Ciarán)は1999年に33歳で急逝した。母親のキャサリン(Kathryn)は2017年にこの世を去るまで、このような時間反転的な出来事による悲しみから逃れられなかった。手紙からはところどころに単語らしきものが読み取れるが、その蓄積によって、楽譜、音波のヴェール、嘆きの音声による譜面として現れるのだ。

ミュージシャンのデイヴィッド・ドノホー(David Donohoe)は、1951年にアイルランドで録音された「キーン(Keen / ケルトの弔いの歌)」をもとに、展示作品群に伴う2部構成の新作声楽曲を作った。この曲は10インチのレコードとして書籍に収められている。この重層的で変化し続ける構成は、本書を体験するにあたり不可欠な部分を成し、その形式と表現方法の両面で書籍本体へ直接的に関わってきている。「キーン(またはアイルランド語の「caoinim」から由来する「Cine」、「嘆き悲しむ」の意)」は、死者のために歌われる古代アイルランドに伝わる嘆きの歌であり、死者の魂をあの世へと導き、集まった人々の悲しみを浄化する表現として存在する。伝統的に「キーン」は女性によって故人の亡き骸のすぐ傍で歌われる。本書に収録する作品の中には、風に揺れる人物と布の歪んだ形が、泣き叫ぶ音そのものの形をしているように見える。

ダブリン三部作において作者は、いかにしてその都市の現代的な力と人々の動きが、絶えず互いに影響しあい、形作るのかを観察している。本作では、我々を形作り突き動かしてきた、根源的かつ原初的な力を探る。

光の速さというのは残酷なもので、我々が振り返ることができるのは常に過去のみであるということだ。遠くを見れば見るほど、より遠い過去を見ることになる。しかし、理解しようと試みることで、過去は現在にもたらされる。たとえ、時にはそうできないことがあるとしても。これは、ダブリンの街角で撮影された写真にも、遥か遠く離れた銀河のプラズマ雲を撮影した写真にも当てはまることだろう。そして、時間の振動を通過することで、どこか理解することができる。まるで、宇宙に放たれた歌のように。

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取り扱い twelvebooks
エディション limited edition of 1,000 copies
サイズ 37.0 x 28.0 x cm
重量 1.0kg
商品コード 1100042416
出版 D1 RECORDINGS
著者 Eamonn Doyle
ISBN 9780992848736
配送までの期間 ご注文確定後、2-7日以内
カテゴリー
送料 ¥770(税込)
購入条件

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