メキシコ人フォトグラファー、グラシエラ・イトゥルビデ（Graciela Iturbide）の作品集。フランスの出版社「ATELIER EXB」が刊行する、鳥をモチーフとしたシリーズ『DES OISEAUX』の一つである。ラテンアメリカ写真界を代表する作家であり、ドキュメンタリー的アプローチと叙情性の間で揺れ動くイメージを作り出すことで知られる。あえて被写体を中心から外したフレーム、グラフィック的な表現、そして力強い影が、奇妙な感覚と厳しい現実が混在する詩的な世界を作り出している。 作品が持つパワフルな構図のバランスは、鳥で埋め尽くされた空、市場の屋台で静かにニワトリが待つ可笑しくも予想外の状況、ハトがサルとけんかする場面を見せ、かと思えば、別の場所では、流動的で柔軟な動きをする雲がまるで本物の生物のように現れる。

作者にとって、生きている鳥は自由の象徴である。しかし、死が遠くにあるわけでは決してない。同時に、ある種の超現実的な精神も遠くない。インドからメキシコへ、水辺から都会のテラスへ、カモメ、ワシ、ハト、サギ、カラスが人間の領域と思わしきところへ入り込み、あるいは突然、孤独にすっと入ってくる。作者の描く鳥たちは、鑑賞者を魅了すると同時に、嫌悪や反発のいずれも喚起する。その儚さ、そして時には力強さもだ。

『DES OISEAUX』は作家陣の目を通して、現代社会の中で弱まり衰えつつある鳥たちの存在の大きさを称えるシリーズであり、各作品には鳥類学者であるギレム・ルザッフル（Guilhem Lesaffre）にエッセイを添えている。本シリーズには、マイケル・ケンナ（Michael Kenna）、水谷吉法、ベルナール・プロス（Bernard Plossu）、ペンティ・サマラッティ（Pentti Sammallahti）、テリ・ワイフェンバック（Terri Weifenbach）などが参加する。