メキシコ人アーティスト、ガブリエル・クリ（Gabriel Kuri）の作品集。過去10年間、作者は2種類の掲示を撮影し続けた。ホテル、美術館、倉庫など、建物に掲げられている緊急避難経路図と、公衆トイレの清掃表である。両シリーズは並行して発展していき、作者が世界各地を移動してきたことを物語っている。2つのシリーズが編まれることで、この『不測の事態の形態と切迫した状況のパターン（FORMS OF CONTINGENCY AND PATTERN OF IMMINENCE）』の骨格が構成されている。

「偶発的な事態」と「差し迫った状況」というコンセプトを見ると、最初はこの二つが相反するもののように感じる。起こらないかもしれない何かと、起こるであろう何か。しかし、作者の一見何気ない、しかし計画や図表を用いた執拗なまでの視覚的な記録によって、この対比は疑問視されることになる。第3の要素の出現は、この姿勢をさらに増幅させる。透明なシートに印刷された黒いインクのドローイングが、両方の写真に重ねられているのである。アーティストの存在感、つまり目撃し記録するという積極的な役割が、それぞれの写真に呼応して描かれたこのスケッチにまで及んでいる。ドローイングの練習と同様に、日付、時間、イニシャル、名前、幾何学的な形が写る場所に集中して、このマークはやみくもに描かれる。このように作者のマッピングは、偶発性と切迫性の二元論を反映すると同時に、それを解体している。人間が計画し構造化しようとする最も形式的かつ詳細な努力の中にさえ、ある種の混沌が発生することは不可避であることを示唆しているのである。

イギリス人作家であり美術評論家であるジェームズ・ケーヒル（James Cahill）が寄せたテキストが、本書を完成へと導いている。作者とケーヒルによる綿密な会話から芽生えたこの文章は、形式とコンテンツに基づくコンセプチュアルな作者の立場をどうも模倣したものであるようで、プロジェクト全体の詳細な分析であると同時に、アーティストの心を巡る叙情的な旅路としても在る。