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アートとテクノロジー、ビジネスを横断するクリエイター|デイジー代表・稲垣匡人インタビュー

リアルタイムグラフィックスなどを用いたインタラクティブ・アート作品を制作する「daisy*」。代表の稲垣は、アーティストとエンジニア、そして経営者としての側面を持ちながら、新たな表現の可能性を模索する。10月23日より開催されるアートとデザインの展示会「DESIGNART TOKYO 2020」に出展するのにあわせて作家に、代表作に込めた思いや制作に対する考えを聞いた。

――daisy*はデジタル・エンターテインメントの開発提供を事業としながら、アート作品も制作している点が特徴的です。テクノロジーをアート作品に取り入れる際に意識していることはありますか?

 テクノロジーに関しては既存のものを組み合わせてつくるケースが多く、特別に開発してというわけではありません。むしろ、テクノロジーを使っていかにコンテンツとしての深みを出せるかという点に重点をおいていて、そのチューニングに苦心しているところがあります。あくまで「デジタルツールをつくるのは人間」で、鑑賞者もまた人間です。人の心に響く作品かどうか、心を動かせる仕組みになっているかどうか、をいちばん重要視しています。

――アートの側面とテクノロジーの側面、どのようにバランスをとって制作されていますか?

 基本的にはチーム内の各自がアイデアを持ち寄って、それらを合わせて作品をつくっています。僕が代表ですが、僕自身がすべての指示を出すわけではなくて、チームの化学反応をいかに起こせるかと、そのマネージメントを心がけています。その過程で、僕自身思いもよらなかったことが生まれて都度驚きます。今の時代、特にメディア・アートにおいて、アーティストが一人だけでつくる作品はほぼないでしょう。現代美術でも著名なアーティストは大量生産をしないといけないし、大作になると一人ではつくれない。であれば、どうやってチームの力を発揮させていくのかが、これからは重要になってくると思います。
 テクノロジーを使うには、アートが得意な人とエンジニアリングが得意な人がいて、そのなかでも、例えばキャラクターづくりが得意な人や背景が得意な人など様々で、一人ですべてクオリティの高いものをつくるのは難しい。音楽でいうとバンドみたいなもので、ボーカルやギターなど得意分野が分かれていて、将来的にメンバーの一人がソロで活動したりもする。僕たちも、そういうコレクティブなやり方でやっていきたいと思っています。

――デジタル・アートはペインティングなどと比較して、技術面などの変化が著しいと思いますが、どのように考えていますか?

 作品をつくるときにテクノロジーありきでつくってしまうと、時間が経過して技術が古くなってしまったときに、作品がもたないと思います。見る側としても新鮮味がない。そういう意味では、テクノロジーにとらわれず深いレベルで心の動くようなものをつくりたいです。深みを出すためには制作する人の思いや職人性が必要で、テクノロジーを使った作品にもそれらは反映されると思います。

ーーデジタルの作品として、どのようにメンテナンスを行っていますか?

 アナログの作品修復はもとの姿がわからなかったりする一方で、デジタルはデータで残せるので、アナログの作品を修復するよりも正確なメンテナンスが行いやすいと思います。
 デジタル・アート作品をつくる際、純粋にアートのことだけを考えるとメンテンスを意識せずつくることになりがちですが、作品が後世に残ってずっと楽しんでもらえるようになるには、メンテナンスの方法なども考えざる得ない。アーティストが亡くなったときにメンテンスを引き継ぐ人がいなければ、作品を残し続けることはできません。その一方で、誰でもコピーできてしまう作品では意味がない。そのバランスをとることが重要なんだと思います。

ーー最後に、今後の展望をお聞かせください。

 コロナ禍の影響もあり、オンライン上でも成立するアート作品を模索しています。ギャラリー以外での展示やオンライン上での展開など、マーケットも変わってきています。それに合わせたアートを提示していければと思っています。

 

出品作品紹介

《麹町勝覧 2017》

日本画を下地にした江戸時代の東京・麹町の様子が描かれている映像作品。一心堂本舗からの企画を受け作品製作のきっかけとなる。3D空間を持つリアルタイムグラフィックスで画面を構築され、同じシーンが二度現れないように設計されており、人々が賑やかに町を往来する様子は、AIによってまるで一人ひとりに意思があるかのように見える。
細部についても、日本画ならではの金箔の貼り込みや中景・遠景の描き方を残しつつ、そこにテクノロジーである3Dを加えることで、絵画的表現のなかに奥行きを生んでいる。また、微妙にレイヤーを揺らしたり映像をボケさせることで、まるで望遠鏡で町を覗いているような感覚になる。2Dと3D、日本画とテクノロジーを融合させた作品である。

作品は時間の経過に合わせて昼から夜へとなり、人の往来も増減する

枡を彷彿とさせる、作品の雰囲気と合った額装

《ancient aquarium 2019》

古代魚・シーラカンスが雄大にモニター内を泳ぎ回っている。リアルタイムで描画されており、《麹町勝覧》同様、同じシーンが現れることはない。魚がゆっくり近づいてきてぶつかりそうになるかと思えば遠ざかっていくその様は、人間の叡智が自然界に及ばないことを示唆している。
画面は液晶ではなく、深みのある黒や高いコントラスト表現が得意である有機ELを使用。それによって暗部の部分が立体的になり、深海の深度がより表現されている。また、視野角が広いため、斜めからでも美しく見え、吸い込まれるような映像美となっている。

《HAKONIWA 2014》

顔を3Dスキャンすることによって自身がアバターとなってその場で仮想空間に入り込み、動かすことのできるデジタル・アート。クラシックなゲームコントローラを使ってアバターを観察したりいたずらしたりと、ユーモアあるバーチャル世界を体験することができる。
ゲームのようなストーリー性や起承転結はなく、ただひたすらアバターが動き回る。リアルの自分がバーチャルの世界に入り込む仕組みは、ゲームとアートの境界にも言及し、発表当時、多くの人が驚いた。

編集部

Artist Profile

稲垣 匡人

1969年生まれ。株式会社デイジー代表取締役。東京造形大学で彫刻を学び、在学中に現代美術家・戸谷成雄の作品制作やワタリウム美術館のアシスタント業務に従事し、様々な現代美術のプロジェクトに携わる。同時期に、日本におけるメディアアートの草分け的存在である「Canon Art Lab」プロジェクトにアシスタントとして参加し、テクノロジーを使ったアートに可能性を見いだす。2004年、「daisy*」を設立。業務ではエンターテインメント分野を主軸としながらそれらのノウハウを活かしてアート制作や新規事業のプロトタイピングなどを行い、2014年以降、美術館などで作品を発表。2017年、NHK『日曜美術館』で「アートはサイエンス展Ⅱ」(軽井沢ニューアートミュージアム)が、日本でのテクノロジーを使った作品事例として紹介された。