ニッキー・ミナージュのデザインチームに参加し、アルバム『Queen』のジャケットのタイプフェイスを手掛けてから、最近では世界から注目を集めるガールズグループ「XG」とのコラボレーションまで、注目のアーティストからも高い評価を受けて世界的に活躍するGUCCIMAZE®︎。その鋭利なラインのレタリング、動的で立体的なタイポグラフィやサイケデリックな配色は、とくに音楽やファッション、そして美術を愛する人々を魅了し続けています。
各界からのラブコールが続くなか、GUCCIMAZE®︎は、自分が到達したい表現と周囲から期待される表現との乖離を感じ始め、葛藤を抱えるようになります。しかし、通過点に過ぎない一地点の表現に、多くの人が熱い反応を送る状況にSNSなどを通して接することで、今回は「皆が想像する『GUCCIMAZE®︎』を逆に意識し、実験的に発表する」ことを決定。シグニチャーであるモチーフに絞った、初めての発表となります。モノクロで統一された展示空間に「静謐さ」を感じたGUCCIMAZE®︎は、「動的」な作品を並べることで、そのコントラストを楽しめるようなリズム感とテンションの統一を意識したと言います。
肩書きを「グラフィックデザイナー」とするGUCCIMAZE®︎は、ロゴやレタリングへの関心から、漠然とデザインの道を志し、武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科へ進学。美大受験のために始めたデッサンが好きで、手を動かした制作を思い描いていたところ、デザイン学科ではデザインという「概念」を紐解く授業の多さに戸惑います。現在はデザインソフトを使いこなす「デジタル」な印象も強いですが、卒業後に就職したデザイン制作会社でソフトに触るまでは、「アナログ」であったと話します。しかし、いったんソフトの使い方を習得するとそれに夢中になり、硬い雰囲気の「情報整理された」エディトリアルデザインの美しさに気づいて、冊子や書籍も多く手掛けてきました。デジタルな処理で制作するとはいえ、「構図を決めて絵柄を手描きし、残りの10パーセント程度をデザインソフトで仕上げ、奥行きを視覚的に生み出す感覚で制作する」と話すGUCCIMAZE®︎。デザインとアートの領域を柔軟に行き来する彼は、「注意しないと見過ごしてしまうくらい細やかな主張で、ベースは手作業であることが垣間見えるものが良いデザインであり、良いアートである」という考えのもと、自身も同様の表現を目指しています。
彼のシグニチャーである鋭利なラインをモチーフにする理由をたずねると、「なぜか自然に波のような線を描いてしまう」という彼のルーツが垣間見えました。地元である湘南はグラフィティが盛んなエリアで、彼にはサーフィンが身近にあり、1990年代のサーフブランドに多く見受けられた、波を模しつつもエッジーで格好よいロゴデザインの影響を受けたとのこと。また、ブラックやメタリックといったダークで「ワルい」イメージを彷彿とさせる色使いは、特撮テレビドラマに登場する「いかにも悪そうな」悪役の、毒々しいフォルムや色使いなどデザインの格好良さへの憧れから。記憶や身体性とともに表現に落とし込まれた「格好良さ」や「悪さ」は、キッズの「好きなもの」がぎゅっとつまった「カルチャー」を感じる作品として目前に現れ、そこに人々がノスタルジーを感じるのかもしれません。
《untitled.3》(2024)
《untitled.4》(2024)
《untitled.6》(2024)
《untitled.8》(2024)
プロフィール
GUCCIMAZE®︎
1989年神奈川県生まれ。グラフィックデザイナー/アーティスト。
主な作品にFetty Wap、Post Maloneへのグラフィック提供、Flying Lotusのアルバムタイトルロゴ制作など。そのほかSEIKOとのコラボアイテム制作やCalvin Klein、UNDERCOVER、Google、SONY、BOILERROOMといった企業への作品提供も行っている。コーポレートワークではブランドロゴのみならず、エディトリアルデザインやウェブサイトまで手掛ける。主な展示に、個展「MAZE」(Diesel Art Gallery、東京、2020)、「DEST」(Gallery Tsukigime、東京、2023)。河村康輔、Yoshirottenとのグループ展示「CHAOS LAYER』(Gallery Tsukigime、東京、2021)など。2022年にはadidas Originalsとのコラボレーションスニーカー「Ozrah by GUCCIMAZE」を発表し、全世界で発売した。
Information
GUCCIMAZE®︎「OIL SELECTION : GUCCIMAZE®︎」
会期:2024年3月26日~4月24日 |