増田将大の作品販売がスタート。「現実」と「虚構」の境界を探り、時間を可視化する絵画
OIL by 美術手帖がおすすめのアーティストを紹介していく「OIL SELECTION」。今回は、増田将大です。継続して描き続けている、風景や室内空間を独自のプロセスで描く絵画シリーズから新作を出品いたします。
文・構成=髙内絵理(OIL by 美術手帖)
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増田将大は、「時間」をテーマに作品を発表しています。その制作過程は複雑でありながらも作品をかたちづくる要素は削ぎ落されています。風景などの対象を撮影し、その像をプロジェクターで同じ場所に投影、再度撮影するというプロセスを繰り返し、それをシルクスクリーンで刷り重ね、絵具が幾重にも重なる多層構造の画面から、重層的な物質感を持つ絵画として表現されています。
もともと映画が好きだった増田は、学生時代に自宅で映画をプロジェクターで投影して見ていたときに、家具などのインテリアにも映像が映りかぶさってきて、「実在しない映画という虚構の世界が、現実の世界に並行して存在しているような感覚を覚え、映画館で見るのとは違う臨場感や気持ち悪さを感じた」と話します。ふだん意識しない虚構の世界がそこに存在しているという実感を絵画でも表現できないかと考えたことで、この作風が生まれました。
増田は時間を「流れている」のではなく、「瞬間の断片的な連続」ととらえています。例えば、眠る前の記憶と起きてからの記憶はあっても、その間の記憶がないという事象は、「時間は地続きで流れているとは言い切れない」と言います。瞬間が何枚も何枚も連続して動いているような時間の構造は、映画のフィルムの構造とリンクすると考えた増田。撮影とプロジェクションを重ねることで強制的に複数の連続する瞬間を表出させ、絵画に展開。それらは、写真ではなく絵具に置き換えることで、物体としての存在やリアリティを強めています。増田がモチーフに選ぶのは、静止している空間、一見変化が起きていないように見える場所です。近代絵画の巨匠たちが風景画に「動く」時間を描こうとしたことへのオマージュとして、増田は静止している時間を繰り返すことで、絵画に「動く」時間を可視化させます。
2012年から茨城県にあるシェアスタジオ・スタジオ航大に移ったことでスケールが大きい空間や室内の「時間」も描き、メタ的な構造で見せることで、そこに流れる時間の可視化を試みています。増田の、物体としてのリアリティを持つ絵画から「時間」を感じることで、鑑賞者はそれぞれの記憶や体験と接続する瞬間を体感してみてください。
《Moment's#106》(2023)
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《Moment's#105》(2023)
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《Moment's#104》(2023)
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《Moment's#67》(2022)
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プロフィール
増田将大
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1991年静岡県生まれ。2020年東京藝術大学博士後期課程修了。現在は茨城県にあるシェアスタジオ・スタジオ航大を拠点に活動。増田将大の作品は、対象となる何気ない風景を撮影し、その画像をプロジェクターで同じ場所に投影。再び同じ視点で撮影するというプロセスを複数回くり返し、さらにそれをキャンバスの上にシルクスクリーンで刷り重ね、多数の図像と絵具の重なり、掠れを孕んだイメージを映し出す。このカメラとプロジェクターを用いたイメージの重なりとズレは、我々の生きているこの時間が、一瞬一瞬が連続する映画フィルムのように連なり、形づくっているのではと想起させる。主な展示に、「Scattered and Connected」(MARUEIDO JAPAN、東京、2022)、「VOCA 2020」(上野の森美術館、東京、2020)など。パブリックコレクションとして「公益財団法人現代芸術振興財団前澤友作コレクション」に作品が収蔵。
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