アメリカ人パフォーマー、ヴィジュアルアーティストであるヴァジナル・デイヴィス（Vaginal Davis）の作品集。作者は映像作品、作家活動、音楽家、教育者としても活動し、「Blacktress」と名乗りながらカウンターカルチャーの象徴的存在として在り、クイア・ミュージックやその活動の歴史の中で重要な人物の一人として知られている。

作者はこれまで慣習とされてきたジェンダーやジャンルの境界線を超えて混ぜこぜにし、危うい場所を確実に歩み進んできた。「性的嫌悪（sexual repulsive）」を自称し、40年以上のキャリアの中で「Afro Sisters」、「Cholita!」、「Pedro, Muriel, and Esther (PME)」、「black fag」、「Vaginal Davis」と名付けたアート＆パンクバンドで幅広く活動してきた。ライターであり「Whoracle et Delphi（※註）」である「Ms. デイビス」は、ロサンゼルスとベルリンの色情的なアンダーグラウンド・シーンにおける音楽活動に対し、不満を抱えた奇妙な眼差しを向けてきたのである。

本書には作者の長年にわたる盟友であり共同制作者たちが寄稿している。アンディ・ウォーホル（Andy Warhol）のスタジオ「ザ・シルバーファクトリー（The Silver Factory）」にて馴染みの顔であったビベ・ハンセン（Bibbe Hansen）や、インディーポップバンド「The Hidden Cameras」のゲストパフォーマーであり「Tenderloin」のメンバーでもあったフェリクス・クノック（Felix Knoke）は、秘密や亀裂を暴露しながら、共演したパフォーマンスやリハーサルを絶賛している。また、ブルース "ジュディ" ラ・ブルース（Bruce “Judy” LaBruce）、グレン・ミードモア（Glen Meadmore）、リサ "サックドッグ" カーヴァー（Lisa “Suckdog” Carver）らがサプライズ・ゲストとして登場し、「The White to Be Angry」、「Trust Fund」、「Interracial Dating Game」、「We’re Taking Over」、「Afro De Sade」、「Camp/Anti-Camp: A Queer Guide to Everyday Life」などのライブパフォーマンスの光景とともに収録されている。

※註 Whoracleは「whore（売春婦）」と「Oracle（神のお告げ）」を組み合わせた言葉であり、女性を性的に侮蔑するスラング。「Whoracle et Delphi」は、ギリシャ神話に登場する「デルフォイの神託（Oracle at Delphi）」を元にした造語。