アメリカ人アーティスト、マーク・ダイオン（Mark Dion）の作品集。2011年4月から9月にかけてモナコの「モナコ新国立美術館（Nouveau Musée National de Monaco / NMNM）」で開催された展覧会に伴い刊行された。時間と空間、デザイン、文学、芸術において我々が抱く海への憧れの変遷を探り、神秘的で恐ろしく、驚異的なこの存在が芸術的研究にどのようなインスピレーションを与えてきたかを明らかにする。博物学者、考古学者、そして旅人として研究を続ける作者は、巨大な「驚異の部屋（curiosity cabinet）」を制作すべく「モナコ海洋博物館（Oceanographic Museum of Monaco）」のコレクションを探り、「モナコ新国立美術館」のコレクションへと潜入して、展示スペースのひとつである「パロマ館（Villa Paloma）」で大掛かりな介入を行った。本書には、展覧会の風景、作者が制作したオリジナルの画像、様々な作家によるエッセイを収録しており、海洋探検の多様な側面や、海面より上に海洋世界を展示する際の課題や挑戦を探求している。

このプロジェクトにおけるコンセプトの枠組みを形成しているのは、近年起きた2つの重要かつ対照的な海にまつわる事象である。それは、本書が刊行される少し前に完了した「海洋生物のセンサス（CoML）」（2010年）と、石油掘削リグ「ディープウォーター・ホライズン（Deepwater Horizon）」の暴噴・爆発・炎上・沈没事故によるメキシコ湾原油流出事故（2010年）である。前者は、世界70カ国から2,000人以上の科学者を集め、すべての海洋生物の過去と現在のセンサス（人口動態調査）を行い、10年間にわたって海洋における生物の多様性、分布、豊かさを評価し、そのデータに基づいて将来を予測するというものである。後者は、海底油田掘削作業中の爆発事故で、技術的な不備により海底油田から逆流してきた天然ガスが引火、爆発し、海底に伸びる掘削パイプが折れて大量の原油がメキシコ湾へ流出した。同年7月までの流出量は490万バレル（約78万キロリットル）にのぼり、80平方マイルにおよぶ死の海域を作り出し、海洋生物に甚大な被害をもたらした。その影響は今後数十年にもわたって続くと予想されている。

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