ベルリンを拠点に活動するドイツ人アーティスト、トーマス・デマンド（Thomas Demand）とロンドンを拠点とする建築事務所、カルソ・セント・ジョン（Caruso St John）による作品集。本書は、北欧デンマークを代表するテキスタイルブランド「クヴァドラ社（Kvadrat）」とのコラボレーションにより誕生した、エーベルトフト本社の新パビリオン 「ザ・トリプル・フォリー（THE TRIPLE FOLLY）」を紹介する一作。この建物は、リーガルパッド、紙皿、ソーダ・ジャーク帽子という3つの紙製のファウンド・オブジェを元に「これを建築にできないか」と、トーマス・デマンドがカルソ・セント・ジョンのアダム・カルソ（Adam Caruso）とピーター・セント・ジョン（Peter St John）に持ちかけた単純な質問から構想された。これに対して、建築家らは、ミーティングルームやキッチン、ドイツ人コンセプチュアルアーティストのローズマリー・トロッケル（Rosemarie Trockel）によるテキスタイル作品が置かれた柔軟な居住空間など、海辺の小高い丘の上に、居住可能であり静物画のような空間が広がる、三つのフォリー（※註）を創り上げた。

著名なテキスタイルメーカーとして役割を果たす「Kvadra」にインスピレーションを受けたデマンドは、テントを娯楽と避難場所として、シンプルさと壮大さといった文脈にわたって多くのバリエーションを持つ典型的な建築構造として捉えるところからはじめた。これらのコンセプトを自身の芸術言語である紙に変換したデマンドは、この軽快なフォルムを特有の虚構的な奇想を交えて具現化することをカルソ・セント・ジョンに課した。2022年9月に完成した建物は、光と影、テクスチャーのある不透明感と心地よい透明さにより環境を創りだす、一連のスチール製とガラス繊維の調和のとれた構造体によって実現された。

カナダ系アメリカ人建築家、フランク・ゲーリー（Frank Gehry）、アメリカ人建築家、デニース・スコット・ブラウン（Denise Scott Brown）、ベルギー人キュレーター、ヴァレリー・ヴァーハック（Valerie Verhack）、クヴァドラ社CEOのアンダース・ブリエル（Anders Byriel）、建築家のエミリー・アペルケ（Emilie Appercé）、また本プロジェクトの共同制作者であるアダム・カルソ、トーマス・デマンドによる綿密な対談とともに、完成した建造物の図版を豊富に収録する。

「BOX EDITION」では、3冊の作品集を収録。パビリオンの構想段階から建設までの変遷を、さまざまな分野の専門家が集い紹介する。通常版の1冊に加え、デマンドの草稿段階のスケッチブックの複製を2冊が加えられている。

※註 西洋の庭園にある、特定の用途を持たない装飾用の建物