ベルギー人アーティスト、リュック・タイマンス（Luc Tuymans）の作品集。40年以上にわたり、自身が独自に持つ言語と新たな視覚的ボキャブラリーを創り上げてきた作者のキャリアを包括的に記録したカタログ・レゾネの第2巻。1995年から2006年にかけて制作された作品約200点を収録する。

この時期、作者は国家や集団的な記憶に関する思考をテーマとするようになった。1996年に制作した10点の連作「The Heritage」（1996年）においては、ラシュモア山や野球帽、米国旗といったアメリカ人の生活にゆかりのあるイメージを、1995年に起きたオクラホマシティ連邦政府ビル爆破事件以降国が物理的にも精神的にも脆弱であると認識されるようになったと警告する、不穏なビジョンへと変換した。2000年にニューヨークの「David Zwirner」で初めて発表され、2001年の「ヴェネチア・ビエンナーレ」のベルギー館で展示された絵画「Mwana Kitoko: Beautiful White Man」では、コンゴ民主共和国を植民地支配したベルギーの歴史に由来するイメージを描いた作品である。また、代表作とも言える「The Secretary of State」（2005年）は、コンドリーザ・ライス（Condoleezza Rice）元アメリカ大統領補佐官を力強くも一見脆く描いた作品であり、アメリカにおける人種差別や性的偏見の長い歴史を想起させ、打ち勝ったものを象徴しているのではなく。我々の現実を形作る活力であることを示唆する。

作品に加え、美術史家のエバ・マイヤー・ヘルマン（Eva Meyer-Hermann）による編集後記と、インスタレーションビュー、図版付きの年表も収録。本書は、あらゆるもののデジタル化が進む現代においてもなお、作者がその信念を貫き、絵画の重要性と妥当性を主張し続けている証であり、その存在はアーティストや研究者にとって指標であり続けている。