旧ユーゴスラビア出身のパフォーマンスアーティスト、マリーナ・アブラモヴィッチ（Marina Abramović）の作品集。

2010年に「ニューヨーク近代美術館（MoMA）」で開催されたパフォーマンスに伴い刊行された。作者は、美術館のアトリウムに椅子を用意して静かに座り、来館者に好きなだけ向かいの席に座ってもらうというパフォーマンスを敢行した。3カ月にわたる会期中、毎日約8時間座り続け、延べ716時間30分、1,500人以上の観客と向き合った。その多くが感動して涙を流したという。イタリア人フォトグラファー、マルコ・アネッリ（Marco Anelli）は期間中、参加者たちのポートレートを撮影し、同時に彼らが椅子に座った時間も記録することで、すべてのインタラクションを捉えている。作品が時間を意識するものとしていたように、撮影された写真は作者の視点でパフォーマンスを疑似体験させてくれる。

参加者には美術館の常連客や、ルー・リード（Lou Reed）、パティ・スミス（Patti Smith）、ビョーク（Björk）、シャロン・ストーン（Sharon Stone）、ジェームズ・フランコ（James Franco）など、著名なアーティストや俳優、ミュージシャンらの顔ぶれも並ぶ。

本書は2012年に発行された初版のリマスター版であり、パフォーマンス準備中の舞台裏を撮影した未公開写真を追加で収録し再版された。この緻密な記録はドラマチックな瞬間も平凡な瞬間も明らかにし、パフォーマンスそのものがそうであったように、互いが与える影響によって見える人間らしさを物語っている。