堀聖史の作品販売がスタート。世界の真理へ近づく旅のひとかけらを絵画に
OIL by 美術手帖がおすすめのアーティストを紹介していく「OIL SELECTION」。今回は、堀聖史です。「アートフェア東京2025」出展にあわせて、作品を出品いたします。
文・構成=髙内絵理(OIL by美術手帖)

堀聖史は、いまでこそ「画家」「音楽家」として活動をしていますが、自身の創作の始まりは「誰かに見せるものではなく、自身の救済のための個人的なものであった」と振り返ります。東京藝術大学入学前に通っていた高等専門学校では、科学技術のイノベーションやAIに興味を持ち研究しようとしていたものの、その環境に違和感を覚えて、次第に自分だけの世界へと離れていきます。人との関わりを持ち、少しずつ積み重ねて世界を変えていくことには希望が持てず、それよりも価値観や認識が一瞬ですべて変換されるような大きな難題解決を望み、思考した堀。それからしばらくは、自己の起源や世界の成り立ちについて深く考え、この世界の真理について追求するようになります。そのときに自身の思考をアウトプットする方法が、いま思えば絵を描くことや音を奏でることでした。しかし、堀はそれらが「創作、表現であるという認識は一切なかった」と言います。
ヘンリー・デイヴィッド・ソローの『ウォールデン 森の生活』(1854)に影響を受け、自身も実際に近くの森に出かけてしまうほど、「この世界で自分が自分として、純粋に生きられる居場所のようなものをずっと探していた」と話す堀。転機となったのは大学1年生の頃。大学の寮で、堀の部屋に友人たちがたむろするようになり、堀が何気なくその場にあった楽器を弾くと、友人たちも呼応する。叫んでみたら、叫び返してくれた。最初は遊びだったものが、それはいつの間にか即興演奏として、どんどん「表現」になっていく。美術を専攻する堀が、冗談で値段をつけた絵を初めて購入してくれたのも友人だった。「自分の世界」は人前に出すものではないと抑制していた堀は、受け入れてくれる「表現という世界」の発見に、自由や人と関わる楽しさを感じます。また、その友人たちは現在、堀のもうひとつの活動であるバンド「カブトムシ」のメンバーでもあります。
そこからしばらくは、コミュニケーションの面白さを感じて発表を続けていました。次第に堀は「伝える」ことについて再考し始めます。複雑で混沌とした自分の思考を「わかりやすく」伝えることに傾き過ぎると、まだ途上にある自分のスタイルを説明するために情報を絞ったり、表現の本質的な部分に湾曲が生じると感じ、作品における純粋性の担保があやうくなると感じた堀。現在は、答えが出ない難題に挑むゆえに複雑な思考を持っていた過去の自分に立ち返り、その思考を制作に落とし込むことを試みています。当時、真理を追求し彷徨った「森」に分け入っていくのではなく、「森」を描いてみる。新たな混色の方法を模索するなかで、色に「太陽」「月」などの名前を付す、「一無位の真人」(*1)という禅の概念をモチーフとして表現してみる、など自分の深部にあったものを新しいかたちでアウトプットしています。思考がまとめられた書物を読んで理解するように、「平面に落とし込むことが物事を理解すること」と考える堀は、追求する大きな真理の断片を見つけては発表していくような感覚で制作を続けています。
*1──地位や名誉など何ものにもとらわれない真の解脱人のこと。また、真人はつねに目や耳や鼻などの感覚器官から己の身体を出入りしているという、臨済禅師による言葉。
《花摘む人》(2025)
《グリーンオアシス》(2022)
《プレイルーム、トラバサミ》(2024)
プロフィール
堀聖史
1996年北海道生まれ。2021年東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業、23年同大学大学院美術研究絵画専攻修了。主な個展に「マジックタイム・スイートホーム」(バンビナートギャラリー、東京、2024)、「スタート、ストップ、メモリー」(higure17-15cas、東京、2023)、「甘い目」(バンビナートギャラリー、東京、2023)、「過去虹」(バンビナートギャラリー、東京、2022)など。ほかグループ展多数。主な受賞歴に「AATM アートアワードトーキョー 丸の内2023」審査員野口玲一賞、「O氏記念賞」(2021)、「CAF賞2020」入選(2020)など。
Information
「ソローの光」
会期:2025年3月7日~9日 |
