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蓮輪友子の作品販売がスタート。風景画ではなく、風景を「つくり出す」絵画

OIL by 美術手帖がおすすめのアーティストを紹介していく「OIL SELECTION」。今回は、蓮輪友子です。六本木 蔦屋書店での個展「OIL SELECTION 蓮輪友子」の開催にあわせて、その全出品作を「OIL SELECTION」として紹介いたします。

文・構成=髙内絵理(OIL by 美術手帖)

 蓮輪友子は、個人的な経験から着想を得て、身近な場所や旅先でスナップ写真のように撮影した数秒の短い動画をモチーフにして、絵画を描いています。蓮輪は絵画を通じて、光の表現を追求していますが、その原体験は小学生の頃に遡ります。緑色に発光して流れていく火球を夜空で目にしたとき、「その美しさに興味を持ったことが、画家としてのスタート地点だった」と話します。

 京都市立芸術大学の入学当初は風景画を描き、具象的な表現をしていましたが、次第に抽象的な表現へ移行していきます。契機は、あるとき描いていた砂漠の絵について、教授だった画家・宇佐美圭司からの「説明的だから空を消してみなさい」という助言でした。青色の空と黄色の砂という画面分割から、空も砂漠と同じ黄色にして境界をなくしてみると、一見均質に見えるのに微妙に違う黄色の層が表れたことで「まるで画面が立ち上がったような感覚を覚えた」と言う蓮輪。例えば、1枚の絵のように見えているアニメの1場面も、じつは背景のセル、人物のセル、時間ごとに人物が動いていくセル……と、複数のセルで構成されているように、砂漠も、風が吹いた瞬間、ゴミが舞う瞬間……と、実際には複数の時間の層が存在している。蓮輪は、その多数の層を平面空間のなかで再現する「動的な抽象絵画」を試みるようになります。

 2002年頃、蓮輪は対象物を見ながら描くことを画家であれば誰もができる「スケッチ」ととらえており、何も見ず、頭のなかにあるものを自身の感性と組み合わせて生みだすことが真の「創作」であると考えていました。あるとき、木洩れ日が差し込む木々の絵で揺れる光を描こうとした蓮輪は、架空の風景をつくり出し、画面に落とし込みます。しかし、架空の光の入り方が正確ではなく不自然になり、木のモチーフもパターン化してしまい、理想とする「光」や「動き」が描けなかった。そうして、木を描かなくなり描きたい対象が消失してもなお、焦燥感にかられて画面に向かい続けていると、いつの間にか「キャンバスの後ろにしいていた養生シートのしわを描き続けていた」。抽象画に落とし込んだつもりが、画面に表れているのは、描く理由が枯渇した自分自身。そのときの経験から、蓮輪が描きたい「光」は、文字通りの意味で、その絵を見て明るく、ポジティブな気持ちになってほしいという思いを込めたものになりました。そんな絵画が飾られている空間が開放的で、交流が生まれるような「光」に照らされた場所となるよう、蓮輪は画面を超えて空間をつくる意識で制作しています。

 同時期に東日本大震災が発生し、その未曾有の事態を目の前にした蓮輪は、自身の創作はなんの救いになるのか、自問自答をします。蓮輪の実家は銭湯を営んでおり、風景が描かれているタイル画の壁の前で、それぞれが自由に過ごし、交流する光景が日常の風景。自分が描く絵は、銭湯の空間のように誰かの役に立ってほしいけれど、その自信がいまはない。人の救いにならないとしても、せめて自分の救いにはなるようにと、蓮輪の一番大切な存在である妹をモチーフとして描くようになりました。これが、画面に人物がモチーフとして登場したきっかけです。

 その後、15年に妹が病気で他界。同様の手法で描いても虚像を描いている違和感を覚え、モチベーションを保てなくなっていた蓮輪は、16年に訪れたオランダのレジデンスで新たな展開の手がかりをつかみます。試みたのは、そこで出会ったある姉妹の仲睦まじい姿や交流した時間を画面のなかに落とし込むこと。妹に匹敵するモチーフはないけれど、類似する瞬間や人物をモチーフにすることで、近しい画面の強度を感じられることに気づきます。蓮輪の個人的な体験を端緒としながらも抽象的な表現は、鑑賞者に自由に想像させ、それぞれの記憶や体験に引き寄せます。それは、例えば、楽曲の歌詞がまるで自分のことを歌っているかのように思えて共感することと似ているかもしれません。

 モチーフは人物を撮影した「動画」であることが多いですが、それにより蓮輪の作品には象徴的な白色の部分=「光」が表れます。これは、映像の一場面を切り取った際に表れるもので、コントラストを強く、露出を調整した「光」です。印象派の作家が外に出て光を見ながらその感覚を画面に表現したように、現代に生きる蓮輪はパソコンのディスプレイを見ながら、映像の一場面の「光」を画面に落とし込んでいきます。強く鮮やかで透明感のある発色は、液晶ディスプレイのRGBから着想を得たという蓮輪。油絵具を重ねた時間の積層の動的な表現と、映像とのグラデーションや親和性を会場でもお楽しみください。

 





《Melanchtonweg-1》(2024)

《Principe Pio-1》(2024)

 

《Principe Pio-2》(2024)

 

 

《Melanchtonweg-4》(2024)

 

 

 

プロフィール

蓮輪友子

1981年大阪府生まれ。京都市立芸術大学大学院美術研究科卒業。個人的な経験をもとに、身近な場所や旅先でスナップ写真のように撮影した数秒の短い動画を用いて絵画を描く。近年は台北やオランダ・ロッテルダムの展覧会に参加し、国内外に活動の幅を広げている。また個人の活動と並行して、自身が海外を訪れた際に出会うアーティストの展覧会を日本で開く活動も続けている。主な個展に「エリクサー」(YIRI ARTS、台北、2024)、「Paradisso」(三越コンテンポラリーギャラリー、東京、2023)、「THEATER」(Nami Ita、東京、2023)、「LICHT」(YIRI ARTS、XPO、台北、オランダ、2022、2016) 、「FES」(YIRI ARTS、台北、2020)など。

Information

蓮輪友子個展「OIL SELECTION 蓮輪友子」

会期:2024年9月10日~10月9日
会場:六本木 蔦屋書店
住所:東京都港区六本木6-11-1 六本木ヒルズ 六本木けやき坂通り 2階シェアラウンジスペース
開館時間:8:00~23:00
休館日:テナントに準ずる。詳細は店舗HPをご覧ください。
料金:無料
※時間は変更となる場合もございます。