大山エンリコイサムによる個展「Book Covers, Bookends」が開催。同展にあわせて制作されたブックエンド型のマルチプル作品《FFIGURATI #611》を発表。
大山エンリコイサムは、ストリートアートの⼀領域であるエアロゾル・ライティング(※)のヴィジュアルを再解釈した表現により、注目を集めるアーティストです。1970年代のニューヨークで始まったライティング文化に影響され、その特有の線の動きを抽出し、再構成することで生み出された独自のモティーフ「クイックターン・ストラクチャー」(QTS)を国内外で発表。作品制作と並行して、これまでに『ストリートアートの素顔』(⻘土社、2020年)など複数の著作を刊行し、現代美術とストリートアートを行き来する研究や批評にも取り組んでいます。近年では、MEET YOUR ART FAIR 2023「RE:FACTORY」のメインアーティスト/アーティスティック・ディレクターを務め、現代美術の領域を中心に活動の幅を広げています。
※NYのストリート文化から発展した、自分の名前をアートとして描画する表現文化
2022年の「Paint Blister」展に続き、NADiff a/p/a/r/t での2度目の個展となる本展では、書店/アートギャラリーとして2023年9月にリニューアルした当店の特徴に着目し、さまざまな技法を⽤いて書物にまつわる事物の翻訳を試みた作品群を展示しています。
OIL by 美術手帖オンラインでは、同展にあわせて制作されたブックエンド型のマルチプル作品《FFIGURATI #611》のオンラインエントリーを行います。これまで⼆次元の視覚表現として多様なジャンルを越境してきた「クイックターン・ストラクチャー」(QTS)を、本作では自律するブックエンドとして三次元化し、書物とのあいだに生じる相互作⽤によってQTSの多面的な可能性をさらなる次元へと展開しました。2月15日(木)12時より下記のエントリーフォームより、お申し込みを受付いたします。
私はかつて思考実験として、壁の落書きと美術史の言説を重ねて考えたことがある。壁の落書きはしばしば、時間を隔てた複数のかき手によって内容がかき換えられる。美術史もまた、複数のかき手による言説がより糸のように合わされ、解釈や否定によるかき換えを挟みながら紡がれていく。そこに構造的な共通点をみた。この視点において、書字が生起するメディアとしての壁面と紙面もまた、重なることになる。本展「Book Covers, Bookends」の端緒となったブックエンド型の彫刻作品《FFIGURATI #611》を着想したとき、私が抱いたのはそうしたイメージである。紙面に印字されたテクストの声が壁面にエコーし、書物のページの表面にコンクリート塀のテクスチャが浮かび上がる―そうした重層的な、視覚のうちに聴覚や触覚がにじみでる共感覚的なイメージ。
《FFIGURATI #611》は、型どられたコンクリートの下部パーツと、3Dプリンタで出力されたPLA樹脂の上部パーツが結合し、そこにステンレスのクイックターン・ストラクチャー(QTS)が三次元的に配され、ボルトやエアロゾル塗料のアクセントが添えられている。コンクリートは路上の壁を、3Dプリンタは最新の情報テクノロジーを示唆する。近代社会では文字の主要なメディアは紙だったが、古代社会では文字は石板に刻まれ、現代ではディスプレイに表示される。テクストをめぐる新旧メディアへの参照が《FFIGURATI #611》を構成する素材に反映されている。そこにストリートのライティングから抽出されたQTSと現実の書物が合わさり、《FFIGURATI #611》は、壁面、紙面、古代、近代、現代を彷彿させる要素を内包した多面的・抽象的なオブジェクトになる。
ブックエンド型の彫刻作品である《FFIGURATI #611》のもうひとつの特徴は、美術作品とプロダクトの中間にある両義性かもしれない。美術作品とプロダクトの区別はしかし、社会が要請するカテゴリーにすぎず、それを前提にした両義性は、たとえば民族的出自の異なる両親をもつ人をハーフやミックスと呼ぶことに似ている。聴覚を耳で、触覚を肌で感じるものとし、その混在を共感覚と呼ぶことにも近い。そこには、事物や生物や感覚そのものをダイレクトに捉えようとせず、社会的に構築されたフレームからのずれで測ろうとする欲望がある。それを回避すること。《FFIGURATI #611》が単体のとき、それは中心である。一冊の書物を携えるとき、それは対関係にある。多数の書物の端にあるとき、それは周縁である。こうした空間配置による理解はより正確に感じられる。
並行して、オブジェクトの固有性と複製性をめぐる問いがある。型どりや出力のパーツを中心に構成された《FFIGURATI #611》は、展示用の7体を含む30体ほどが生産され、社会に流通する。それらは基本的に複製物だが、各個体が帯びた固有性もその佇まいに意味のある彩りを加えている。コントロールしきれない成型過程がもたらすコンクリートの気泡や質感。作家のスタジオで慎重に吹きつけられたエアロゾル塗料のマチエール。職人による曲げ加工が生みだす金属の流線的なライン。そして側に置かれる書物との、ときに調和し、ときにすれ違うような緊張関係。個体ごとに一定の変化をともなう《FFIGURATI #611》は、固有性と複製性のあいだを揺らぎ、生産と所有、鑑賞と使用、中心と周縁といった概念の図式を独自に逸脱するのである。
(大山エンリコイサム)
作家|⼤⼭エンリコイサム
価格|530,000円(税込、箱代込)
※送料は着払いになります。
素材|ステンレススチール、コンクリート、プラスチック、エアロゾル塗料
サイズ|約37.5 × 25.5 × 34.0cm
制作年|2024年
限定|30 (エディションナンバー入り)、作品証明書付き
ご配送時期|2024年6月下旬
HOW TO ENTRY
《FFIGURATI #611》オンラインエントリー
<オンラインエントリー申し込み期間>
2024年2月15日(木) 12:00~2024年3月1日(金) 12:00
※申し込み期間は終了しました※
※受付終了日は、会期終了日とは異なりますのでご注意ください。
※作品内容は予告なく変更になる場合がございます。
※その他詳細はエントリー申込ページをご確認ください。
Artist Profile
⼤⼭エンリコイサム / おおやま・えんりこいさむ
美術家。ストリートアートの⼀領域であるエアロゾル・ライティングのヴィジュアルを再解釈したモティーフ「クイックターン・ストラクチャー」を起点にメディアを横断する表現を展開。イタリア⼈の⽗と⽇本⼈の⺟のもと、1983年に東京で⽣まれ、同地に育つ。2007年に慶應義塾⼤学卒業、2009年に東京藝術⼤学⼤学院修了。2011-12年にアジアン・カルチュラル・カウンシルの招聘でニューヨークに滞在以降、ブルックリンにスタジオを構えて制作。2020年には東京にもスタジオを開設し、現在は⼆都市で制作を⾏う。
Information
⼤⼭エンリコイサム|Book Covers, Bookends
会期|2024年1⽉25⽇〜2⽉25⽇ |