大小島真木らが長野県諏訪地方に滞在し、その地の歴史、風土、民俗から触発されて制作したという作品群を一堂に集めた個展が現在、調布市文化会館たづくりで開催中(会期は2024年1月14日まで)。今秋にHARUKAITO by islandで開催された個展「私ではなく、私ではなくもなく ”not〈 I 〉, not not〈 I 〉“」とあわせて、大小島は2つの展覧会を通して生命の根源的な問いを投げかけています。
大小島らは滞在時、実際に鹿の狩猟を経験。鹿を仕留めたときに「鹿の眼球に自分が映り込んでいたのが印象的だった」と話し、実際に狩った鹿肉を食した際には「まるで自分を食べているような感覚を覚えた」と話します。自分の身体を超えて大地と接続することで自分の身体を「見つめ返される」ような感覚から、生命の循環を感じます。また、諏訪大社で執り行われる神事「御頭祭」も体験。これは、かつて鹿の頭を75頭、神に捧げていたという盛大な祭儀で、いにしえからの祈りをいまに伝える貴重な祭りです。自然を敬うとともに自然を殺めもする狩猟や儀礼を目撃した大小島らは「繁殖が途切れないようにという願いを込めて、多産性の象徴であった鹿を、贄(いけにえ)として祀っていたのではないか」と話します。「鹿でありつつ、私(人間)でもあるという、どこかおたがいの存在がはざまにおいて投影される合わせ鏡のようにも感じた」鹿の頭は、表情は静かに、人間をただ見つめるように佇んでいたのです。
今回は、展示会場での記憶を手に取れるものとして、作品ともプロダクトともいえない「あわい」にあるものとしてマルチプルを制作。鑑賞者には、お守りのようなマルチプルを通して、大小島らが諏訪で感じた「命のまなざしを追体験してほしい」という思いが込められています。「御頭祭」にあやかって、マルチプルにはそれぞれ75のエディションが付されています。マルチプルは、大小島を中心に、作品ごとにメンバーを変えて構成されるアーティストグループ「MAQUIS」により制作。本展の会場でも展示されている立体《SHUKU》の制作でも活躍、久山ドナルド宗成の彫金が特徴的な仕上がりとなっています。鹿の上の部分をよく見ると、蛇が乗っています。脱皮をする蛇は、「生まれ清まり」を表すモチーフ。鹿と蛇の絡まりを「死」と「再生」のシンボルとして表現しています。
また、かねてから制作に関わっていた編集者・辻陽介との本格的な協働制作体制に入り、名称をそのままにユニットとしての活動を本格的に表明、展開していくこととなった本展。もともと大小島は、自分の名が課されて作品が発表されても、「自分個人に作品が紐づけられているではなく、関わった人すべてによって構成され、紐づいている」と認識。関わる人が入れ替わったり協働したりという過程で「自分」と「他者」の境目が曖昧になって作品がつくられていく状況も、自身のテーマにより親和性が高まっています。
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プロフィール
大小島真木
東京を拠点に活動するアートユニット(大小島真木+辻陽介)。異なるものたちの環世界の「あいだ」に立ち、絡まり合う生と死の諸相を描くことを追求している。インド、ポーランド、中国、メキシコ、フランスなどで滞在制作。2017年にはTara Ocean財団が率いる科学探査船タラ号太平洋プロジェクトに参加。近年は美術館、ギャラリーなどにおける展示のほか、舞台美術なども手掛ける。
Information
大小島真木「千鹿頭 A Thousand Deer Heads」
会期:2023年10月7日~2024年1月14日
2022年に大小島が長野県諏訪地方での滞在型リサーチで収集した、同地に伝わる神話、信仰、民俗、地形などから得たインスピレーションをもとに、絵画、映像、造形、テキストなどの様々な形式によって制作した作品群を紹介。 |