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野原邦彦の作品販売がスタート。曖昧な記憶を「かたち」にして没入感をもたらす表現

OIL by 美術手帖がおすすめのアーティストを紹介していく「OIL SELECTION」。今回は、野原邦彦です。現在、ザ・リッツ・カールトン東京で開催中の特別展示「Floating moment」にあわせて、木彫の新作とシルクスクリーンによる版画作品を出品いたします。

文・構成=髙内絵理(OIL by 美術手帖)

野原邦彦のアトリエ

 野原邦彦は、キャッチ―で親近感を覚えるモチーフをポップな色彩で表現した木彫を中心に発表、近年は平面も展開しています。野原は、自身の表現を「曖昧さに近づいていく感覚がある」と話します。例えば音楽を聴いて心地良いと感じるふとした瞬間は、とても大切なものでありながら、無意識に過ぎ去ってしまいます。「その瞬間をかたちに留めて、その感覚に浸ることができるような作品を生み出したい」と話す野原。つかもうとすると消えてしまう「泡」や、つかみたくてもつかめない「雲」は、野原のテーマを象徴する代表的なモチーフです。また、「体感できない時間という存在を、木は可視化することができる」ものとして、木彫は自身との親和性が高い表現と感じています。

 自身の心地良い時間や空間を表現してきた野原ですが、近年、アプローチも少し変化しています。自分のなかで忘れたくない時間や空間を記憶しておきたい、という側面が強くなってきていると感じる野原。自身の地元駅の廃止や老朽化による祖父母宅の解体など、存在していることが当たり前であったものがなくなっていく様子を身近に体感し、「自分が立ち返る場所や、自身を形成した重要な要素をなくしたくないと感じた」と言います。野原は、写真や映像では残せない、香り、空気、風や気分などを含んだ、その瞬間の表現を展開していきます。

 今回の展示では、ザ・リッツ・カールトン東京のロゴマークにみる王冠と百獣の王ライオンからイメージした新作を発表。会期中は、野原の代表的なモチーフが菓子としてアフタヌーンティーのメニューに登場するコラボレーションもあり、空間と作品により特別な「非日常」を味わえる体験も提案しています。あわせてオンラインでは、その小立体作品を出品いたします。また、「ART FAIR TOKYO 2023」展示ブース上に浮かばせた巨大バルーン作品としても記憶に新しい、《雲間》を再構成した平面作品のシリーズもご紹介。これには、自身の地元・北海道での原風景、かまくらづくりのひとときが表現されています。

 

 

《Matcha 牡丹に獅子》(2023)

 

《山と月》(2023)

 

《Star ピンク》(2022)

 

 

《Star ブラック》(2022)

 

 

 

プロフィ―ル

野原邦彦

 

1982年北海道生まれ。2007年に広島市立大学大学院芸術学研究科彫刻専攻を修了。自身が感じ取った様々な状況を作品化し、現在の記憶からは排除されそうな自由や時間、欲望を表現する。色彩豊かで独創的な造形の木彫作品を中心に手がけ、近年はキャンバス作品や木の断片を用いたミクストメディアなどの平面作品にも取り組んでいる。20年のgallery UG Tennnoz(東京)のこけら落としとして個展「CYCLE」を開催。その他の主な個展に、「今夜は本屋でパーティー」(銀座 蔦屋書店 GINZA ATRIUM、東京、2018)、「ステキな時間」(上野の森美術館、東京、2017)。国内での展示にとどまらず、台湾やシンガポールなどのアートフェアやグループ展にも参加している。

Information

野原邦彦特別展示「Floating moment」

会期:2023年9月1日~10月31日
会場:ザ・リッツ・カールトン東京 グランドフロア
住所:東京都港区赤坂9-7-1東京ミッドタウン
電話番号:03-3423-8000(代表)
開館時間:ザ・リッツ・カールトン東京の営業時間に準じる
料金:無料

 

「ART TAIPEI 2023」

会期:2023年10月20日~10月23日
会場:台北世界貿易中心
住所:台北市信義区信義路5段5号
開催時間:11:00〜19:00(20日 14:00〜、23日 〜18:00)
料金:詳細は公式ウェブサイトを参照