大澤巴瑠は、言語を用いたコミュニケーションにおける「ズレ」から着想し、現代における価値の曖昧さを可視化する作品を制作しています。大澤の代表的な「onomatopoeia」シリーズの制作方法は、もとの原画をコピー機で左右に振ってズレを発生させ、その原画とはかけ離れた印刷物を作成、それをもう一度肉筆で絵画に再現するというもの。コミュニケーションにおける、言いたいことと伝えたいことに生じるズレと、「複製」を行う機械から「唯一」のものが生まれるというズレに、想定外の差異という点で共通すると感じ、それを「唯一の絵画」に落とし込む表現を追求していきます。また、コピー機に象徴される大量生産の価値と、絵画に象徴される個人が体感する唯一の価値。時代によってその価値基準も曖昧であることを可視化します。
この特徴的な制作方法が生まれたきっかけは、大学2年生のときに遡ります。大澤は当時受けた授業を契機に、イラストレーター上で加工して押し潰した横長の文字の羅列を描いた抽象画を発表していました。文字を並べると意味を持った言語となるはずが、変形すると解読不能のただの線のようになってしまうことから着想し、具象から抽象への変化を表現した作品。下書きに時間のかかる作品であったため、効率良く複製できる方法を思考錯誤していました。その折にコピー機を使い、何かのはずみでズレが生じた印刷物が生まれた現象にヒントを得て、現在の制作へと発展していきます。コピー機でスキャンするときに起こる光が動く現象を画面上で再現するために、メディウムには銀箔を使用、直接目に反射される光を表現。キャンバスのサイズはA4の比率で展開し、コピー機のサイズ感を想起させます。
近年、大澤は「鑑賞者にはより制作のプロセスに着目してほしい」と話し、動物などの具象的なモチーフから抽象的な表現へと移行しています。今回の個展では、新たに「草書」をモチーフに展開しています。「そこに書かれている日本語にGoogle翻訳のカメラをかざしても暗号のようになり解読できない。テクノロジーが発達した現代であるにもかかわらず、翻訳は曖昧である」と話す大澤は、これが書かれたであろう時代の何倍も時間をかけて読み解き、絵画に落とし込みます。デジタルとアナログを行き来しながら、AIが完全に発達したら、この価値が問われるであろう絵画の表現を試みます。
《onomatopoeia》(2023)
《onomatopoeia》(2023)
《onomatopoeia》(2023)
《onomatopoeia》(2022)
プロフィ―ル
大澤巴瑠
1997年東京都生まれ。2020年多摩美術大学美術学部油画科卒業。22年京都芸術大学大学院芸術研究科美術工芸領域油画科修了。ARTISTS' FAIR KYOTO2023参加。
「『複製』という行為にあえてわたしはバグを起こす。この行為によってコピーをしたはずが、印刷物は別のオリジナルに変容してしまっている。私はデジタルの複製をアナログで複製することにより、価値の曖昧さを作品に仮託し、可視化した作品を制作している(大澤巴瑠)」。
Information
大澤巴瑠個展「光」
会期:2023年7月29日〜9月3日 |