高山夏希の制作には、作品や展示空間が誰かにとっての「居場所」になりうるのではないかという切実な想いが込められています。今回、個展が開催される奈義町現代美術館は、高山にとってその想いを強めた大切な場所です。学生時代に展覧会のために玉島(岡山)に滞在し、その折に訪れたのが本館でした。建築家・磯崎新によって設計された美術館は、「太陽」「月」「大地」と名付けられた3つの展示室から構成され、土地の自然条件にもとづいた固有の軸線を持っています。自然を感じ、ひとりになれる空間で、身体感覚に訴えかける作品から「生」を実感したと言う高山。また、当時の出会いから現在まで、学芸員や館長と交流を重ね、帰省するように訪れ続けている場所でもあります。高山はこの出会いをきっかけに、自身も誰かにとっての「居場所」となるような作品を制作したいと考え、今回、この場所での展示が実現しました。
自然や動物をモチーフに描く高山は、科学技術の発達した現代社会において、本来は一体化しているはずの人間と動物と、それらを取り巻く環境に対しての実感を感じにくくなっていることを危惧しています。現代に生きる人間が抱える孤独の問題に、この断絶も関係していると高山は考えており、私たち自身が世界の一部であることを自覚し、世界との関係を再考できるような作品を展開しようとしています。支持体に注射器でアクリル絵具を絞り出して描く技法からは、自然の現象によって生じる色彩やテクスチャーを感じさせます。何層にも絵具を重ね、または彫刻刀で削り出すことでできる絵画は、自然の風景、例えば長年かけて微細な起伏を帯びた岩肌に対峙するような感覚を想起させます。
人間と動物と、取り巻く環境が一体であることをより感じられるよう、高山は、自然から人間へと向けられる眼差しという意味で「気色の目」という言葉を個展名に用いています。「風景」という人間が自然へと向ける眼差しを表す言葉ではなく、私たちと自然が、たがいに目を交わし合い、どちらかに偏ることがないような自然観を「気色」という語に託しています。自然や他なるものの「気色の目」を感じてください。
《23_4》(2023)
《23_5》(2023)
※数ヶ月以内に他作品の追加出品を予定しております。
プロフィール
高山夏希
1990年東京都生まれ。2014年東京造形大学造形学部美術学科絵画専攻卒業、16年同大学大学院造形研究科美術専攻領域修了。情報メディアや産業機械が発達した現代で薄れてしまった様々な物体と人間の関係の回復をテーマに、ペインティング作品を制作。注射器を用い、絵具を粒状に絞り出し積層させ、そこからさらに彫刻刀やカッターで削り出す手法を用いている。ペインティングのほか、セラミックやモルタル、衣服を使った作品、またシルクスクリーンの技法にも挑戦している。主な受賞歴に「アートアワードトーキョー丸の内」アッシュ・ペー・フランス賞(2014)、後藤繁雄賞(2016)。近年参加した展覧会に「群馬青年ビエンナーレ2019」(群馬県立近代美術館)、「VOCA展2020 現代美術の野望 -新しい平面の作家たち-」(上野の森美術館、東京)、主な個展に「気色の目」(奈義町現代美術館、岡山、2023)などがある。
Information
高山夏希個展「気色の目」
会期:2023年4月29日~6月11日 |