新井碧は身体の有限性と絵画における「痕跡」をテーマに、儚さを感じさせる色使いと力強いブラッシュ・ストロークによる絵画を制作しています。幼少期は入退院を繰り返し、薬を手放なせない生活を送ってきた新井は、「身体のリミットのようなものを自覚するのが人より早かったように思う」と話します。彼女は、自身の意思によってではなく「生かされている」と強く感じ、刻一刻と流れていく時間と向き合います。「絵を描く行為そのものが身体機能の確認であり、日々の記録であり、コミュニケーションでもある」と感じた新井は、絵画には「画面のなかに自分の生きた時間を内包できる」ことに気づきます。
新井の作品は、大胆なストロークを伴った色面と、鉛筆やパステルの繊細な線とが調和しています。筆圧などに現れる、その日ごとのコンディションを受け入れて、作品に反映することで生まれる「痕跡」としての絵画。これらの要素が調和した瞬間に、「生に対する実感を感じられる」と言う新井。ここには彼女による多様な価値観の尊重への願いも込められています。様々な矛盾と不条理に対峙しながら生きる私たちは、異なる肉体や環境によってそれぞれの問題を抱えています。社会の構成要素である自分が自己の問題を思考することは、他者の問題を思考することにつながると考える新井。「鑑賞者それぞれの身体が、筆の痕跡を一緒にたどるという体験をきっかけに、言語のコミュニケーションでは想像しにくい、他者への想像を考える手がかりとしてほしい」と話します。 新井の作品から、自らの想像体験としての時間を体感し、思考をめぐらせてください。
《silhouette #まばたきのシノニム2》(2023)
《silhouette #Nine Discourses on Commodus2》(2023)
《silhouette of scent》(2023)
《silhouette #snowing》(2023)
プロフィール
1992年茨城県生まれ。2015年東京造形大学造形学部美術学科絵画専攻卒業。22年京都芸術大学修士課程芸術研究科美術工芸領域油画専攻修了。無意識的な動作の痕跡に、身体の有限性と絵画の無限性を備える。鑑賞者に「描く行為」自体を身体的に想像・追体験させる手法で、共生の時代であるからこそ、生命と時間の在り方について問う。主な展覧会に、「次風景 Post landscape」(ASTER、石川、2023)、「まばたきのシノニム」(biscuit gallery、東京、2022)、Art Collaboration Kyoto 2022 連携プログラム「Centre-Empty -中空の行方-」(両足院、京都、2022)、「Collectors’ Collective vol.6 Osaka」(TEZUKAYAMA GALLERY、2022)、国立国際美術館「ボイス+パレルモ」サテライト企画「Re: Perspective」(graf porch、大阪、2021)、「SHIBUYA STYLE vol.15」(西武渋谷店 美術画廊、東京、2021)など。主な受賞歴に、「TURNER AWARD 2020」入選(2021)、「京都芸術大学 大学院修了展」優秀賞(2022)など。
Information
「Seasonal ART #Phase15」 会期:2023年3月1日~5月31日
「アートフェア東京2023」 会期:2023年3月10日~12日
「grid 2」(後期) 会期:2023年3月25日~4月16日 |