尾花賢一は、覆面の男などをモチーフにした彫刻やマンガ形式のドローイング作品で知られ、人々の営みや、伝承、土地の風景や歴史からの生成をテーマに発表しています。尾花の「覆面」への関心は幼少期に遡ります。海外赴任する父親に自ら頼んでいた、様々な土地のお土産にある民族的なお面の収集から始まり、そこからゲームやアニメで目にする「覆面」ヒーローの格好よさに強い憧れを抱くようになっていきます。その後、美術の道を志した尾花は、油絵の人物画制作において自分が描きたい理想と現実の乖離に苦しんだと話します。当初、モチーフにはキラキラとした「覆面」ヒーロー、つまり主役を表現していましたが、そこに自分自身を投影して描くには違和感を覚えたと言います。どちらかというと、苦しくても毎日その絵を描き続ける、まさに自分のような、世の中で脚光を浴びることなく懸命に生きている人々を表現していきたいと思うようになっていった尾花。こうして、誰であるかを特定させない「覆面」の人物がモチーフとなりました。
また、30代前半の頃、油絵の制作で悩んだ尾花は、ほかの技法にも挑戦。彫刻では、彫刻刀でかたちを刻むことで作品が成立する点にヒントを見出します。彫刻において彫りをつくる「刻む」行為は、線を「刻む」という点でドローイングにおいても同様ではないかと着想して、ドローイングを制作。物語性が付与されたマンガの形式を持つ現在の作風が生まれました。どの土地での物語かという場所性が重要と考える尾花は、ここから、近年の制作のもうひとつの軸となっている芸術祭の制作へ発展していったと言います。
油絵以外の表現に触れ、そこに可能性を見出し、アトリエを超えて外の世界へと展開してきた尾花の表現。予定調和にならない面白さがあると話す芸術祭では、大きなプロジェクトを動かす緊張感が伴います。今回の出品作は、その正反対のリラックスした状態で制作されたものです(ユニークな彫刻のポージングは、いつも尾花自身がポーズをとって制作)。制作への悩みが突破口をもたらすことになり、現在はより自由に表現ができているという作品群から、尾花の表現の軌跡に触れてください。
《サタデー》(2023)
《クエスチョン》(2023)
《特別な日》(2023)
《耳を澄ます》(2023)
プロフィール
1981年群馬県生まれ。秋田県を拠点に活動する。人々の営みや、伝承、土地の風景や歴史から生成したドローイングや彫刻を制作。 虚構と現実を往来しながら物語を体感していく作品を探求している。近年の主な展覧会に、「国際芸術祭あいち2022」、「瀬戸内国際芸術祭2022」(香川)、「みちのおくの芸術祭山形ビエンナーレ2022」文翔館、「VOCA2021」(上野の森美術館、東京)、「表現の生態系」(アーツ前橋、群馬、2019)など。受賞歴に、上毛芸術文化賞(2022)、VOCA賞(2021)、「Tokyo Midtown Award」優秀賞(2015)、「LUMINE meets ART AWARD」準グランプリ(2014)など。
Information
企画展「里山雪の遊園地~白い雪原に一瞬だけ遊園地が現れる⁉~」
会期:2023年1月28日〜3月12日 |