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北村早紀の作品販売がスタート。人間の多面性を見つめるための「余白」として木版画を表現

OIL by 美術手帖がおすすめのアーティストを紹介していく「OIL SELECTION」。今回は、北村早紀です。このたび、アキバタマビ21でのグループ展「It's All Lies」(1月15日〜2月12日)にあわせ、OIL by 美術手帖では新作に加えて、これまでの軌跡をたどる2つのシリーズを出品いたします。

文・構成=髙内絵理(OIL by 美術手帖)

アトリエでの北村早紀

 北村早紀は、人物をモチーフに木版の技法を用いた作品を発表しています。北村は、幼少期より「人間」に対して懐疑的であったと言います。確証はどこにもないのに人間が人間であると信じているのは、人間ではないかもしれないという恐怖から、人間であることを無意識的に望んでいるのではないか、と感じていた北村。その後、彼女は美術の道を志します。この人間への違和感を人物画として描き、「人間」の理想のかたちを見出すことで、その違和感を解消できるかもしれない、と油絵を描きます。しかしそこには、さらなる違和感が待っていました。完成した絵は、彼女が描いてきた途中のプロセスがすべてなかったことになり、人間に対する解釈が追い付いていないのに答えはひとつに近い状態で提示されていました。これでは人間の多面性や絵画の別の可能性を表現できない、と感じたのです。

 しかし美大に入学後、版画を学ぶなかで制作に向き合ったことで、この違和感は解消されていきます。間接的なプロセスが入り込むことで、作品の完成形が自分の意思を超えた偶然性に左右されること、「彫り」と「摺り」を繰り返していく「彫り進め」という技法では途中段階を残すこともできるため、失われていく展開を残していけることに安堵したと言います。北村はこのプロセスにこそ版画、ひいては表現の可能性を感じたと言い、その後も探求を続けています。

 また、木版摺りの基本的な技法では、版木の凸の部分に色をのせバレンで紙に摺り取ると絵が表れ、彫刻刀で彫られた凹の部分は空白となります。つまり、手を加えなかった部分こそに色がのり、図として出現するのです。北村は、モチーフとして描く人間の、かたちを抜け出せない人物の多面性をこの余白に感じたと話します。今回の出品作では、現在まで制作を続けている2シリーズから、グループ展「It's All Lies」での新作までご紹介。北村の表現の軌跡を感じてください。

 

 

「顔と毛」シリーズ
自分では選択できない自分自身の性や存在に対する柔らかな肯定を、北村が陰毛から着想を得て表現したシリーズ。陰毛はセンシティブな部分を守り、隠しますが、同時にそこにあるという目印であることに不可避の希望を感じたと言う北村。自分の意思とは関係なく起こる身体の変化に未知のものを見つめるような可能性を感じ、顔も後天的な陰部と考え、このような作風が生まれました。じょじょにモチーフは、毛と同じ要素を表す「観念的な毛」の探求へと移行していきます。

 

 

《Never died yet #Ba》(2021)

 

《Nobody Sings, Nobody Sleeps "Rain"》(2022)

 

 

「山と人」シリーズ
人物というモチーフが持つ温度や物語の匂いを感じさせない描き方を、彫り進めの技法で追求したシリーズ。目の前にただ存在する山を北村は障壁の象徴と感じていましたが、それは自分自身の投影であったのかもしれないと考えたことがきっかけとなり、人物が「いる」のではなく「ある」という状態を描く表現に挑んだものです。グループ展「It's All Lies」では大型作品に展開させています。

 

《Beyond the Mountain - A》(2020)

 

《Not found "Echoes" #01》(2023)

《Not found "Echoes" #03》(2023)

 

 

プロフィール

北村早紀

1989年長崎県生まれ。2013年多摩美術大学美術学部版画専攻卒業、15年同大学大学院美術研究科版画研究領域修士課程修了。木版画技法をルーツに、主に人物をモチーフとした作品を制作している。作家の手(彫り)が加えられていない部分が摺りによって顕れる木版画の特性を「表層、空白、不在を摺りとる手段」と解釈し、それらを見つめ、可視化することを試みている。また人物という像が持つ解像度を曖昧にしながら、画面の中の物語や意味を削ぎ落とした「居る」ではなく「在る」ものとしてのポートレイトを模索している。主な個展に、「Never died yet」(Green Thanks Supply、東京、2021)、「Nobody Sings, Nobody Sleeps.」(Green Thanks Supply、東京、2022)、「By the Far Side」(岩田商店ギャラリー、三重、2022)、「Not found mini」(tsugi、福岡、2022)、グループ展に、「Portrait展」(青山Spiral、東京、2019)、「Ordinary than Paradise 何事もなかったかのように」(アキバタマビ21、東京、2021)、「ON PAPER」(TAKU SOMETANI GALLERY、東京、2022)、「 」(MIDORI so. Bakuroyokpyama、東京、2022)など。静岡県熱海市ATAMI BAY RESORT新館への常設アートワークの提供(2019)、SHIPSのアートコラボTシャツ企画へのアートワーク提供(2021)も行っている。

 

 

Information

「It's All Lies」

会期:2023年1月15日〜2月12日
会場:アキバタマビ21
住所:東京都千代田区外神田6-11-14 3331 Arts Chiyoda 2F 201・202
開館時間:12:00〜19:00(金・土は20:00まで)
休廊日:火曜日
料金:無料