＊本商品は、写真集＋額装付プリント作品の商品となります。

イギリス人フォトグラファー、ポール・グラハム（Paul Graham）の作品集。本特装版は、作者自身がピグメント印刷したプリント1枚と、特装版仕様で装丁された「THE PRESENT」作品集の初版が、エンボス加工されたリネンの函に収められている。プリントと作品集にはそれぞれ「MACK Edition」のエンボススタンプと、作者のサイン、ナンバリングが入る。ストリートフォトグラフィーは写真という芸術を定義するジャンルといえるのではないだろうか。ウォーカー・エヴァンス（Walker Evans）、ハリー・キャラハン（Harry Callahan）、ロバート・フランク（Robert Frank）、ゲイリー・ウィノグランド（Garry Winogrand）などの巨匠による人間の営みを鮮やかに捉えた作品群は、現代社会の認識を形作る上でユニークな役割を果たし、後世に影響を与えてきた。そしてポール・グラハムによる本作も、この流れを受け継いでいる。本書のイメージはニューヨークの街角で偶然出くわした光景を撮ったものだが、1つ1つの瞬間を同じ場所において1瞬の差で撮影し、それらを2枚のイメージとして提示するという、意表を突いた形になっている。例えば、眼帯をしたサラリーマンは次の瞬間にはわざとらしいウィンクをしているし、バナナを食べている女性がこちらに向かって歩いてきたと思えば、わずかなフォーカスの変化によって彼女の真後ろに男性がいることが分かる。自信に満ちた足取りで歩いていた女性が1秒後には転んで倒れている、といった驚きもあるにはあるが、大抵のイメージにはストリートフォトグラフィーで常用されるドラマティックな要素は見られない。静かなステージに人が現れては消え、時間と注意の対象がほんのわずかに変化することによって、2つのイメージの間の細い糸のようなつながりが見えてくる。スーツを着た若いサラリーマンが道を渡り切ると、彼の代りにホームレスの男性が現れる。ピンクのTシャツを着て号泣する女性に続いて満足気な買い物客が姿を現す。ストリートフォトグラフィーが切り取ってみせる人生はまるで凍りついたように変化のないものだが、本書の与える印象はそれとはかなり違っている。ここで我々は「前／後」、「行く／来る」、「どちらか／あるいは」といった時間の連続を垣間見る。「今」は、つかの間の暫定的な配列に過ぎず、特異なものでも決定的なものでもない。揺れ動く認識と代替的な現実の世界では、人生は一瞬の間にゆがみ、渦を巻いて、どこか別の瞬間、世界、意識に到達する。『THE PRESENT』は2003年の『AMERICAN NIGHT』に始まったアメリカをテーマにした3部作の3作目にあたる。2007年に発表された2作目の『A SHIMMER OF POSSIBILITY』は、過去15年間で最も重要な写真集としてParis Photo Book Prize 2011に選ばれた。写真集制作の匠としての作者の評判を新たな高みに押し上げた本作『THE PRESENT』は、複数の折り込みページを採用し、時の流れと都市生活の展開を表現している。